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事例5

  • 東京地方裁判所判決/平成14年(ワ)第28713号

  • 平成17年6月7日

  • 請求額6740万1140円/うち1149万5367円を認容。

事例1に類似するケースであり、施設系の事例が多い中、貴重な訪問介護におけるケースです。事故当日大雨が降っていたという事象が作用した、不運な事例であったといえるのではないでしょうか。比較的高額の賠償が認められている点も注目に値します。

(1)利用者の状態

 女性 年齢不詳(明治生まれ)。
平成13年5月26日より、毎週定期的に病院内科に通院し人工透析治療を受けるための付き添いとして、被告事業所の訪問介護を利用し始めた。


本件介護契約の基本的な内容は以下のとおりであった。
  介護する日時は、人工透析をする日(月、水、金)の午前11時30分から午後8時まで

介護の内容

  • ①内科へ通院するための準備

  • ②自宅を出発し、通院用のタクシーに同乗してD内科へ赴き、到着してから透析が開始されるまでの更衣・就床等一切の介護(帰宅用タクシーの調達と乗降の介護、タクシー内の同乗介護、更衣及び就床時の介護)

  • ③透析が終了してからタクシーで帰宅するまでの一切の介護(離床及び更衣時の介護、帰宅用タクシーの調達と乗降の介護、タクシー内の同乗介護、降車してから自宅までの移動の介護)

  • ④帰宅後午後8時までの一切の介護(夕食の準備、給仕、後片付け、トイレへの誘導介護)

ヘルパーBは、平成13年9月21日から、Aの訪問介護を担当した。被告のサービス提供責任者はBに対し、Aの左腕はつかまないで組むこと、室外で杖を使うときは、腕を組む、手をつないで片手は腰にあてるというように、必ずAの体にふれて介助することを指示した。

 

当該責任者は、Aが転倒する危険があったということを十分認識しており、またBは、Aについて常に転倒の危険があると申し送りされていた。


Bは、室外での歩行介助について、Aの身体に触れず見守りによる介助だけ
でいい部分もあると判断したが、これを責任者や他のヘルパーに確認はしていない。

 

(2)事故態様

Aは、平成13年10月10日午後2時5分ころ、内科へ人工透析に行くため自宅を出たが、当日は、相当の降水であったため、つばの大きいレインハット、レインコート及び防水シューズを着用して出かけた。


 Aの訪問介護を担当していたBは、同日午後5時45分ころ、内科にAを迎えに行った。当時、東京は大雨であったところ、Aの家族らは、Aが雨天時に使用するものとして、傘、靴、帽子及びレインコートを指定していたので、BはAに指定された帽子を被せ、レインコートを着せて、原告指定の雨用のシューズを履かせるなど帰宅の準備等をして、内科1階の玄関口までAを誘導した。


Bは、Aに、玄関の2枚扉の外から見て左側の扉の把手に両手でつかまっていてもらい、玄関扉の内側の平坦な場所(床面はタイル張り)に待機させ、2枚扉の外から見て右側の扉を開けて、帰宅のためタクシーを拾いに行った。

 

その際、Aは杖を握ってはいなかった。Bは、2枚扉の外から見て右側の扉は開けたままにしていた。


タクシーを拾ったBは、玄関扉に戻り、Aを自らの肘につかまらせ、自らの方に引き寄せるため、肩に透析バッグを掛け、洗濯物を入れた袋を左腕に引っ掛けた状態のまま、Aの傘を左手に持ちつつ、右腕をL字型に曲げ、Aの体の前に差し出した。

Aが左手を出してBの肘につかまろうとしたとき、Aの左手が時計と反対方向に周り、Aは、玄関扉の把手につかまっていた右手を中心に、円を描くように回転して転倒した。転倒した場所は、玄関扉の内側の平坦な場所である。

 

BはとっさにAの左手をつかもうとしたが、人工透析のため左手は絶対つかまないように指図されていたため、Aの左手をつかむことはできなかった。Aは本件転倒により右大腿部頸部骨折の傷害を負った。

(3)事故後の経緯

被告は、本件事故後、訪問面接調査票1、2及びアセスメントシートを、平成13年10月16日付「A様骨折事故に関するお詫び」と題する書面とともに、A家族らに提出した。Aは、本件事故前は室内では誰かの見守りが必要とはいえ、手すりにつかまっての歩行が可能であり、室外でも他人の介助が必要とはいえ、歩行が可能であったが、事故後は、他人の介助を受けたとしても歩行することは不可能な状態となった。

 

(4)判決文ハイライト

「被告サービス提供責任者は、Aの家族らからの要望を受け、Aとの間で、室外での歩行介助においては、腕をくむなど必ずAの身体に触れて介助をすることを取り決めていたこと、同人は、かかる内容をBに対して伝えていたこと、同人及びBは、Aの転倒の危険を十分認識していたことが認められる。


 さらに、本件事故当時外は土砂降りの雨であり、本件事故現場は屋内であるとはいえ建物の出入り口であって雨によりタイル張りの床面が滑りやすくなっていたと推測されるのであるから、このような場合、被告の担当者であるBとしては、内科の玄関からAを誘導する際、荷物をタクシー内に置くなどして自らの身体の動きを確保したうえ、Aの左の腕を組み、腰に回すかあるいは体を密着して転倒しないように病院外に出るべき義務があったというべきである。


 ところがBは、左手で雨傘を持ったまま、Aにつかまってもらうべく単に右手を差し伸べただけで、Aの身体に自己の身体を密着させて歩行を介助するという義務を怠り、これにより、Aは佇立の状態から足を踏み出した途端にバランスを崩し、右臀部より尻餅をつくようにしてその場に転倒し、その結果、右大腿骨頸部骨折の傷害を負ったといえる。よってBには過失があるといえる。」

(5)認定損害額の主な内訳

 治療費等11万円 介護費用増額分 220万円 慰謝料 801万円
 弁護士費用 100万円

(6)外岡コメント

 本件では、Aさんの娘も、夫の経営する会社での業務を介護のために退職しなければならなくなったとしてAさん本人とほぼ同額の損害賠償を被告事業所に対し求めましたが、これについては因果関係が否定され認められませんでした。


訪問介護、特に本件の様な外出時の付き添いにおいては、正に本件がそうであったように雨等の天候をはじめとする外的要因が多いにリスクに影響してきます。

 

現実には困難かもしれませんが、サービスを提供する事業者側としては、想定し得るあらゆる環境を踏まえた上で、付き添い時の安全を確保できるか否かを慎重に検討する必要があるといえるでしょう。

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