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民事訴訟の責任認定方法についてご説明します。事業所が利用者側から事故責任を追及された場合、裁判所では下記の4つの要素を順番に検討します。
裁判官はこの【1】から【4】までの要件を順番に検証し、それぞれにつき証拠をあてはめ事実の存否や態様を認定していき、最終的に全ての要件が揃ったと判断されたときに損害賠償を認める、という思考過程を経ています。
例えるなら、この思考過程はちょうどプロ野球の「ストライク」や「ボール」のランプの様なものです。【1】、事故の存在が認められて、裁判官の頭の中でまず一つランプが点灯する。次に二つ目のランプに移って、【2】損害が認められて点灯…このように次々とランプが灯り、最後の過失が認められると自動的に【2】の損害額の賠償命令となる、という仕組みです。
やや大雑把なまとめ方ですが、このように裁判官はシンプルな枠組みであらゆる介護事故を処理しているため、特に介護保険法や老人福祉法などを知らずとも、また介護現場の細かいルール等を把握せずとも判決は下せるのです。
介護裁判では【3】因果関係と【4】過失が主な争点となることが多いといえます。
因果関係のレベルでは、専ら医学的見地から当該事故と結果(死亡や後遺症、認知症の進行など)の間に関連が認められるかが争われます。高齢者は元々怪我などのダメージが拡大しやすいという素因があるため、介護訴訟の大半は医学論争に発展する傾向にあります。
過失については、更に
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1.結果を予見する可能性と義務
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2.結果を回避する可能性と義務
の二つの要素に分類されます。
平たくいえば「事故が予想でき、それを職員が注意すれば回避できたと言えるか否か」で判断されますが、前述の様に転倒・転落に関しては結果論的に過失が認められやすいという傾向があります。
ポイントは、1の「予見可能性」です。裁判官がこれを何から認定するかというと、正に日々の介護日誌、それしかありません。記録がなければ記憶、すなわち証人尋問に頼るしかありませんが、大抵は裁判のクライマックスに行われるため、数年前の事故を正確に覚えており再現できる職員は皆無でしょう。
記録は、ただ漫然と日々の様子を日記の様に書けばいいというものではなく、この予見可能性と結果回避可能性の両面を踏まえた記載・分析が必要です。たとえばそれまで自立で歩行できていた利用者が当日ふらついていたとして、その状態をそのまま描写するだけでは不十分なのです。ふらつきというその「変化」に気付いたら、それまでしっかり歩けていた状態とセットで書く。できれば考えられる要因(服薬量が増量した、貧血気味だった等)、取り得る対策(夜間のトイレの際は必ず付き添う等)も考え、できる限り詳細を記載し次のシフトの職員に課題として認識してもらうことまでできて、はじめて意味があるのです。