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・褥瘡(じょくそう)
いわゆる床ずれであり、皮膚が弱く栄養が十分に行き渡らない高齢者は、適切なケアを怠ればあっという間にベッドのシーツと接している面が黒ずみ、皮膚が壊死してしまいます。
実際、私も弁護士としてこの褥瘡系のトラブル相談をよく受けるのですが、不思議なことに褥瘡に関してはまだ先例が殆ど無いというのが現実です。その中でも貴重な裁判例として、平成24年3月23日横浜地裁判決があります。
これは介護付き有料老人ホームに入居していた利用者が褥瘡の悪化に起因する敗血症を発症し,死亡したという事案であり、裁判所は最終的に原告ら遺族の主張を容れ2160万円余の支払いをホーム側に命じました。
有料老人ホームが舞台であるという点も珍しいのですが、ホーム側は裁判では搬送先の病院の処置が原因であると主張し、その病院も巻き込んだ三つ巴の争いとなりました。
このように褥瘡系は転倒等と異なり点ではなく線として継続する現象なので、多くの関係者を巻き込み裁判もその分長引くという傾向があります。今後その裁判件数も増加することと思われます。
・離設・行方不明
認知症の利用者が職員の気づかない内に施設の玄関等から外出し、必死の捜索にも拘わらず遠方の海辺や森等で行き倒れているのが発見された、というパターンです。これも現実には相当数の先例があるはずですが、褥瘡と同じく裁判例は中々見当たりません。
唯一、平成13年9月25日の静岡地方裁判所浜松支部判決があるのですが、これはデイサービスの利用者で重度の認知症患者が施設から失踪(廊下の窓に登り、飛び降りたものと推認される)し,後日施設から遥か離れた砂浜にて死体で発見されたという事案です。
裁判所は「死亡との間の因果関係までは認められないものの利用者が行方不明になったことにより,原告ら遺族が被った精神的苦痛に対する慰謝料等は認められる」として計285万円弱の損害賠償を認めましたが、死亡との因果関係が認められればその額は跳ね上がったことと予測されます。
グループホームや特養など、がんじがらめに玄関等を施錠することが許されない介護施設において利用者の離設はどこでも悩みの種であり、これも深刻なトラブル類型のひとつです。
・職員による手技ミス
付き添い時の転倒や誤嚥も広い意味ではこの類型に含まれるといえそうですが、オムツの交換作業中に骨折させてしまう等、直接的な行為により損害を与えてしまう場合に限定すると、これまた先例は極めて少なくなってきます。
ここでは平成24年3月27日大阪地裁判決をご紹介しましょう。これは介護老人保健施設において浣腸を受けた後,高熱や腹痛等を訴え,敗血症により死亡した入所者について,看護師に浣腸時の体位の選択に関する注意義務違反があり,そのため直腸壁が損傷し,その後他の因子も寄与して損傷が拡大するなどして,敗血症を発症し,死亡に至らしめたものであるとして,死亡慰謝料の請求が一部認容されたというものです(総額は800万円)。
本件では看護師が利用者に対し浣腸を「立位ではなく左側臥位で実施すべき注意義務があった」としてその義務違反を認定していますが、今後痰の吸引や経管栄養の実施など医療行為が次々と介護職員に解禁されていく中で、この類型も今後増加することが予想されます。