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事例20
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東京地方裁判所判決/平成23年(ワ)第10926号
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平成24年11月13日
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請求額5393万1261円/請求棄却。
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デイケア利用中に階段を登ろうとして転倒、右上腕骨骨折した事案
久々の請求棄却ですが、被告施設のみならず介護職員単体、更には担当ケアマネージャーまでもが提訴されたという異色の事例です。
結論としては全ての責任が否定されていますが、外岡の知る限りケアマネ個人が提訴されたケースはこれが初めてであり、その意味でショッキングな事例といえるでしょう。
(1)利用者の状態
女性 71歳 本件施設を利用していた当時、その年齢や病状から来る体力の低下による歩行速度の低下こそあったと推認されるものの、歩行能力において特に問題はなく、階段の昇降を含め、歩行時に介助を必要とする状況にはなかったものであって、本件事故時も同様であった。
Aは平成21年6月19日、Aの子供らとともに本件施設を見学し、同月23日と同月26日、本件施設の通所介護サービスを利用した。
(2)事故態様
Aは、6月30日午前8時30分頃、本件施設1階において、被告Y2(現場の介護職員)によってもう1名の利用者とともに2階への階段に案内された際、
椅子に座っていた階段の介助を必要とする上記利用者を誘導するために被告Y2がAに背を向けて目を離していた間に転倒し階段下にうずくまったが、その際、右上腕骨近位端骨折の傷害を負った。Aは室内用スリッパではなく、日常の靴を履いたままであった。
(3)事故後の経緯
被告会社はAに対し、同年7月30日、30万円を支払ったが、Aはその後東京都品川区所在の病院において乳がんのため死亡した。
(4)判決文ハイライト
「Aが、本件事故当時、歩行能力に特に問題はなく、階段の昇降を含め、歩行時に介助を必要とする状況になかったことは、上記1で認定したとおりである。
加えて、①本件階段の左側壁面には手すりが設置されており、本件住宅の階段と比べても、特に段差が急であったり、手すりの位置や形状にも問題はないことが認められ、他に床が特に滑りやすいなどの事情もうかがわれず、
本件階段下には1段段差があるが、上り口左手前の壁面にも手すりが設置され、右側には手すり同様の昇降リフトのバーもあるなど、事故の危険がことさら高い場所であったとは認められない上、②Aは本件事故前2回の本件施設利用時にも1人で歩行しており、
転倒の危険が生じたこともなく、体調不良等の訴えがあれば本件施設においてメニューを変更する対応が取られており、本件階段横に設置されている昇降リフトの使用も可能であったところ、本件事故当日、そのような訴えがあったことはうかがえないことからすれば、
原告が主張するように、被告Y4作成の個別援助調査表において歩行は一部介助、「転倒に留意」との記載があることを考慮しても、Aと介護職員を1対1で対応させる等の人員配置を行うことは、その方がより望ましいという指摘はできるとしても、被告会社においてそのような義務があったとまでは認められない。」
(5)認定損害額の主な内訳
なし
(6)外岡コメント
Aの遺族である原告らは、ケアマネのAに対する日常生活自立度等の調査が杜撰であったとして損害賠償を請求しましたが、判決は「原告やAから必ずしも十分な調査の機会や時間を設けられない中、
Aと接触する機会を活用し、必要な調査を行った上で被告アセスメント表を作成したものと認められる。」としてこれを退けました。紙一重という感じですが、もしこのケアマネがそのような家族との対応状況の詳細を記録していなければ、かかる事実が裁判において認定されることもなかったかもしれません。
そう思うと日々の記録がいかに重要かということが改めて痛感されるところです。