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事例18
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東京地方裁判所判決/平成23年(ワ)第31251号
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平成24年5月30日
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請求額1982万8732円/請求棄却。
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ショートステイ利用者が、居室にてベッドから転落(推定)し、頭部打撲による脳挫傷に至った事案
ベッドから転落したという典型的な事例ですが、地裁判決ながら数少ない請求棄却事例です。次の事例19と奇しくも態様・状況が酷似しており、片や請求棄却、片や3000万円以上という明暗がはっきり分かれたケース同士であるため、比較検討の上過失の判断基準を究明する大きな手掛かりとなります。
(1)利用者の状態
84歳 要介護度2
平成21年7月7日本件施設に入所し、その後同年11月17日から再び入所した。二階の一般棟に入った。Aは入所当初から徘徊行動を繰り返したため、被告の職員は見守りを実施するとともに、ベッドに離床センサーを設置し、Aが離床する都度対応した。
被告は同月20日、Aを翌21日に個室から多床室に移動する予定としていたが、Aの歩行状態に照らして危険性があると判断し、Aの介護支援専門員に対し退所について相談し、就寝介助時及び起床介助時は利用者対応により原告に見守りをつけることができない時間帯ができてしまい、転倒のリスクが上がってしまうと報告した。
Aは同月21日午後8時50分ころ、引き続き個室にて入眠した。しかしAは、同日午後10時ころから翌22日午前2時30分ころにかけて、5回にわたり、目を覚まして下着を脱ぎ、離床して徘徊するなどしてセンサーを反応させた。
そこで、被告の職員1名又は2名が、センサーが反応する都度、Aの居室に行き、Aを誘導してベッドやソファに臥床させた。
被告の職員は、同日午前4時に巡回したところ、Aが下着を脱いで失禁し、衣類交換に抵抗するなどしたが、最終的に被告の職員2名で個室に誘導して臥床させた。被告の職員が、同日午前6時ころに巡回したところ、Aは睡眠していた。
(2)事故態様
同日午前6時20分ころ、Aの個室のセンサーが反応し、センサー反応から約15秒後居室から「ドスン」という物音があり、被告の職員はAがベッド脇に右側臥位で倒れているのを発見した。
Aには意識障害はなく、頭部の痛みを訴えた。被告の職員がAの身体を確認したところ、後頭部にたんこぶがあった。
(3)事故後の経緯
Aは、同日午前10時10分病院で受診し、CT検査を受けたところ前頭部に出血が確認され、同日午後1時5分転送された千葉脳神経外科病院で、頭部打撲による脳挫傷(両側前頭葉に挫傷)と診断された。
被告は平成22年3月12日、Aに対し、千葉脳神経外科病院での治療費12万0334円を支払った。
(4)判決文ハイライト
「被告は、本件介護契約の付随的義務として、Aに対し、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を信義則上負担していると解される。
もっとも、その安全配慮義務の内容やその違反があるかどうかについては、本件介護契約の前提とする被告の人的物的体制、Aの状態等に照らして現実的に判断すべきである。
これを本件についてみると、前提事実のとおり、被告はAが夜間徘徊して転倒する危険性があることを認識していたから、Aが夜間に転倒して負傷しないよう配慮すべきであったといえる。
もっとも、被告は、Aの個室に離床センサーを取り付けてAがベッドから動いた場合に対応することができる体制を作り、被告の職員が夜間そのセンサーが反応する都度、部屋を訪問し、Aを臥床させるなどの対応をしている。
また、被告の職員は、夜間、少なくとも2時間おきに定期的に巡回して原告の動静を把握している。さらに被告は、Aの転倒を回避するために、Aの介護支援専門員に対し、本件事故前に退所させることや睡眠剤の処方を相談している。
加えてAの居室のベッドには、転落を防止するための柵が設置されていたし、被告の職員2名は、本件事故直前のセンサー反応後、事務所にて対応していた別の利用者を座らせた上でAの居室に向かっている。
このように被告は、本件施設の職員体制及び設備を前提として、他の利用者への対応も必要な中で、Aの転倒の可能性を踏まえて負傷を防ぐために配慮し、これを防ぐための措置を取ったといえる。」
(5)認定損害額の主な内訳
なし
(6)外岡コメント
本判決は「被告は、原告の夜間徘徊、転倒の危険性を認識していたから、負傷しないよう配慮すべきであった」としつつも、被告施設側の以下の取り組みを評価し、結果回避義務違反はないとしたのでした。
ⅰ.センサーを設置し、鳴るたびに職員が利用者の部屋を訪問した。
ⅱ.職員は少なくとも2時間おきに定期巡回していた。
ⅲ.担当ケアマネに対し、退所させることや睡眠剤の処方を相談していた。
ⅳ.ベッドに転落予防の柵を設置していた。
この点原告側は「床に柔らかい物を敷く、マットや布団で寝かせるべきだった」と主張しましたが、裁判所は「利用者は基本的に夜間ベッドで就寝することが想定されており、原告側もこれを理解していたことが窺われるし、
床にマット等を敷くことによって原告の転倒の危険性が増加するという被告の判断が不合理であったとまではいえないから、被告にかかる措置を取るべき義務があったとすることはできない。」としてこれを退けました。