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事例17

  • 東京地方裁判所判決/平成22年(ワ)第31317号

  • 平成24年3月28日

  • 請求額1689万3666円/うち207万7868円を認容。

  • 老健の入居者が転倒(態様不明)・骨折した事案

事例13から引き続き、受傷態様が不明であるにも拘わらず施設側の責任が認められたケースです。

コメントで後述する様に、本件はいわゆる事故後の対応について施設側に落ち度があったのではないかと疑われる貴重なヒントが含まれています。外岡はセミナー等で本件を「事後対応の重要性」の参考例としてよく取り上げます。

(1)利用者の状態

  女性 80歳 平成2年、胃癌により胃の三分の二を切除
パーキンソン病(重症度5段階の内4)、高血圧症、神経症、抑うつ状態、めまい症 幻視、幻覚、妄想等の症状あり


平成20年5月29日、本件施設に入所し、二階の一般棟に入った。杖を使って少しよろけながらも一人で歩けるが、見守りが必要な状態にあった。

 

Aは二階の一般棟において多数回転倒した。職員は、適宜、Aの長男の妻等に転倒等の事実を連絡し、Aの居室を職員のいるサービスステーションに近い部屋に変更したり、コールマットを敷いたり、ベッドに支援バーを設置したが、転倒を防止することはできなかった。


被告施設は、家族と相談の上、平成21年7月6日、Aを二階の一般棟から三階の認知症専門棟に移動させた。Aの長男の妻は移動に賛成であったが、Aの長女はこれに難色を示していた。


三階の夜間の介護体制は、夜勤者三名が午後4時から翌日午前9時まで勤務し、途中、交代で3時間の仮眠をとり、入所者の食事介助、就寝介助をし、サービスステーションで見守りをするほか、

 

午後10時と午前2時にオムツ交換をし、褥瘡のある入所者につき2時間ごとに体位の交換をし、1時間に1回、フロアを巡回して、入所者がベッド上で動いたり立ち上がったりした場合には声かけをしたり、トイレに誘導するといったものである。


Aのベッドは、サービスステーションから見通しのよい場所にあり、Aはリハビリパンツをはいていた。


当時の三階認知症専門棟の入所者数は、54名(定員58名)であり、同日の夜は、Aを含む10名がホールでサービスステーション近くのベッドで就寝し、42名が多床室(相部屋の療養室)、2名が個室の療養室で就寝した。

(2)事故態様

平成21年7月16日午後7時30分頃、Aは就寝した。翌17日午前0時30分頃、職員は、Aがベッドから1m程度離れた場所で歩いているのを発見し、Aを車椅子に乗せ、トイレで排尿し、ベッドに戻り就寝するまで付添介助した。

 

同日午前1時、午前2時、午前2時30分、午前3時、午前4時、午前5時頃、Aは就寝していた。同日未明にAが転倒する事故が発生した。

(3)事故後の経緯

同日午前5時30分頃、職員がAのトイレ介助をした際、Aは「私、転んじゃったの」と述べた。
 

午前7時頃、原告の体温は35.9度であった。同日午前8時頃、職員が車椅子に座っているAの左足を上げると、Aは「痛い」と述べた。


午前10時30分頃、入浴前、Aが脱衣場で車椅子から立ち上がった際、今までにない下肢痛を訴えたため、職員がAの両脇を支えて洗い場に連れて行った。

 

また職員は洗髪時、Aの左側頭部に腫脹があるのを発見した。シャワー浴後、職員がAに立位をとらせて手引き歩行をしようとすると左足の震えがあり、Aは車椅子に座る際、左下肢痛を訴えた。

 

そして着衣時に左足を上げさせようとすると、Aは「痛い」と言って、職員の頭を叩き、職員がドライヤーをかけた際、Aは頭部疼痛を訴えた。


昼食時、Aは施設相談員に、「風呂桶にぶつけた」とか、左足首を指して「ここが痛い」と言った。看護師は、Aの左側頭部を消毒して軟膏を塗布し、左足大転子部に痛み止めの軟膏を塗布した。


同日午後0時頃、施設長はAを診察した。Aは左下肢を動かすと痛みを訴えた。施設長は、股関節部に疼痛があるが、出血や腫脹がないことを確認し、本件介護施設側で病院に連れて行ったのでは家族が納得しないであろうから、家族に病院を受診してもらうことを連絡するよう指示した。


看護師はAの長男の妻及びAの長女に対し、「Aが転倒し、左足の痛みと左頭部に腫脹がある。施設長から近くの病院を受診するようにとの話があった。」旨を電話で伝えた。


Aは同病院において左大腿骨転子部骨折と診断され、総合病院に転送された。

(4)判決文ハイライト

「被告は、平成21年7月17日未明、Aがベッドから立ち上がり転倒する危険のある何らかの行動(例えば、ベッドから出て歩行する等)に出たのに、Aの動静への見守りが不足したため(仮に職員による見守りの空白時間に起きたとすれば、空白時間帯に対応する措置の不足のため)これに気づかず、転倒回避のための適切な措置を講ずることを怠ったために、本件転倒事故が発生したというべきである。

 

そうすると、被告は転倒回避義務に違反しており、債務不履行責任を負う。


被告は、原告の転倒事故を回避する義務を尽くしており、義務違反はないとして種々の主張をする。なるほど、被告は、Aが転倒しやすいことを踏まえ、夜勤者のいるサービスステーションからの見通しが良好である本件介護施設の三階認知症専門棟のホールにAのベッドを置き、見守りを続けるなどしており、転倒回避のための種々の措置を相応に講じていたが、本件転倒事故については事故発生時に何ら気づかなかったことは前示のとおりである。

 

このような事実関係の下では、被告は、本件介護施設の三階認知症専門棟のホールにAのベッドを置きながらAの動静への見守りが不十分であったといわざるを得ず、そのためにAの本件転倒事故を回避できなかったというほかはない。

 

したがって、被告の上記主張は採用することができない。」

(5)認定損害額の主な内訳

 治療費52万円 入通院慰謝料150万円

(6)外岡コメント

結論としては、施設側からみれば正に「結果論」といいたくなるような判示です。

 

1時間に1回という夜間見守りの頻度は、決して少ないものではなく、職員らもむしろAに対して十分な注意を払っていたと評価できるのではないかとも思われますが、「受傷態様不明の場合は低額の損害賠償認定」という流れが、既にこの時点で定着しつつあったのかもしれません。


なお本裁判例には、事故後の施設側の対応として以下の様な記録があります。


「Aの長男及び妻、並びに長女は、平成21年7月19日、本件介護施設に来所して、「同月17日にAが帰りの車の中で、座っていられないほど痛がり、泣き出すほどであったのに、謝罪の言葉もなく、軽く頭と足を痛がっているので近くの病院に受診させてほしいと言われただけだった。」などと本件介護施設の対応に抗議した。」


第二章で検討してきたとおり、事故後の家族対応は、特に初期対応においては実に細心の注意を払わなければなりません。

 

外岡自身は本件につきAさんご家族にインタビューをした訳ではないのでその真意は分からないのですが、おそらくこの職員の対応が提訴の原動力になったのではないかと推測します。そうだとすれば、それは実に勿体無いことです。

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