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事例13

  • 大阪地方裁判所判決/平成17年(ワ)第5265号

  • 平成19年11月7日

  • 請求額3447万4241円/うち602万8641円を認容。

  • グループホームの利用者が自室のベッドから転落し受傷した事案

「ドスン」と音がして、或いはセンサーマットやナースコールが作動して居室に駆け付けたところ転倒していた、というケースは夜間見守りの時間帯に頻発するところ、本件を皮切りに、

 

当該類型につき提訴され責任が認められる裁判例が多く登場するようになります。これまでの個別性の高い事例と異なり、「いつ、どのように受傷したか分からない」という点で共通しており、施設側としては特に防御が困難な類型です。

(1)利用者の状態

 女性 86歳 老人性痴呆 屋内はほぼ自立だが外出には介助必要
食事・排泄・歩行自立、入浴・更衣・炊事・洗濯一部介助
 意志表示及び話の了解について、大体できるが不完全。平成15年11月18日、被告施設へ入所。


同月20日、Aは、隣室の別の入居者の居室で二人で就寝していたが、ベッドより転倒し、唇、あご及び脇腹を打撲した。氷で冷やし、湿布で対処するも、あごには内出血の腫れ、唇の出血があった。


 同月27日午前0時15分、ドスンという音がしたため、職員がAの居室へ行くと、ベッド横でうつぶせになっていたところを発見され、ベッドから転落した様子であった。意識レベルは正常であったが、「動けない」「気分が悪い」などの訴えがあり、様子観察された。


 同日午前2時、Aは、居室より出トイレへ行くも、前かがみがひどく、何とか手ひきで歩ける状態であり、トイレにて排尿するが、失禁しており、ベッド上にて全介助で更衣された。


これを契機として、ポータブルトイレの使用が開始されるようになった。
平成15年12月4日午前1時、Aがベッドから落ちそうになっていたため、職員がベッドサイドに椅子を置いて対応した。


同月8日、要介護2から3に変更された。

(2)事故態様

平成16年1月30日午前1時20分、ドンという音で職員がAの居室に駆けつけたところ、Aがベッドの床横側に長い座位の状態で発見された。

(3)事故後の経緯

病院で受診したところ、左大腿骨転子部骨折と診断され、手術のため、入院した。

同日に作成された事故報告書によれば、今後の課題及び対処・改善点として、臥床時のベッド臥床位置の改善(中央より壁側へやすんで頂く)、ベッドの見直し(ベッド柵、マットの使用)、臥床時の居室巡回などが報告されていた。

(4)判決文ハイライト

「本件では、①入居からわずか二日後に、Aはベッドより転倒し、唇、あご及び脇腹を打撲し、あごの内出血の腫れ、唇の出血などの傷害を負っていること、

 

②それを契機として、本件において転落事故再発防止のための具体的な有効策が施された形跡はうかがえないこと、

 

③そして、その7日後には、再度ベッドから転落していること、

 

④そのことについては、家族側には連絡されていないこと、

 

⑤これを受けて、転落事故再発防止のための抜本的な有効策は講じられていないこと、

 

⑥その後も、平成15年12月4日及び同月23日の夜間、Aがベッドから落ちそうになっていることが発見されているが、それにもかかわらず、転落防止策について、有効な策は何ら講じられていないこと、

 

⑦平成16年1月12日、A家族が本件施設を来訪し、職員と話し合いを持った際にも、ベッドから転落したことについて一切説明はされておらず、転落に係る事情についての十分な情報提供と、それを踏まえての事故防止に向けた家族との協議がされず、その結果、事故防止対策なども全く講じられていないこと、

 

⑧このような経過を経て、平成16年1月30日、本件事故が発生したこと、⑨本件事故の報告書には、被告側の課題及び対処・改善点として、臥床時のベッド臥床位置の改善(中央より壁側へやすんで頂く)、ベッドの見直し(ベッド柵、マットの使用)、臥床時の居室巡回などが報告されていたところ、そのような報告がその時点でされていることに照らすと、それまでに、これらの事項について、十分な対策が講じられていなかったものと推認し得ることなどの事実が指摘できる。


これらの事実によれば、被告が介護事業者として、本件契約上負っている安全配慮義務や情報提供義務等を履行していなかったものと評せざるを得ず、被告には債務不履行責任が生ずるというべきである。」

(5)認定損害額の主な内訳

 治療費60万円 入院雑費14万円
 慰謝料170万円 後遺障害慰謝料 275万円 弁護士費用52万円

(6)外岡コメント

度重なる転落にも拘わらず、何ら対策を講じず家族にも報告しなかったという事実が重くみられたものと推測されます。その意味では、本件において被告施設は当然すべきことを怠ったといえ、損害賠償もやむを得ないといえるでしょう。


なお本件では、事故責任とは別に「80万円の敷金を退去時に50%償却」という返還規定の当否も争われており、裁判所はAさんが2カ月程度しか滞在しなかったことに鑑み、敷引分のうち30万円については返還すべしと判示しました。

 

これも公平妥当な結論と思われます。

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