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事例2
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福島地方裁判所判決/平成14年(ワ)第17号
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平成15年6月3日
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請求額1054万7970円/うち537万2543円を認容。
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老人保健施設の汚物処理場での転倒による骨折事案
居室内のポータブルトイレを職員が清掃してくれなかったため、自分でしようとして汚物処理場の入り口に躓き転倒・骨折した事案です。
介護現場における転倒・骨折事例の草分けとして有名な判決ですが、その内実は通常の「目を離した隙の転倒」とは大きく事情が異なっており、施設に明らかな義務違反が認められるため、施設側敗訴もやむなしかと思われます。
(1)利用者の状態
女性 95歳 要介護度3
平成12年10月27日、本件施設に入所。ケアプラン表には、「以前骨粗鬆症あり、下半身の強化に努め転倒にも注意が必要である。」と記載されていた。昼は共同トイレを使い、夜はポータブルトイレを使用していた。
(2)事故態様
平成13年1月8日夕刻、Aは食堂で夕食を済ませ自室に戻ったところ、自室のポータブルトイレの排泄物が清掃されていなかったので、夜間もこれをそのまま使用することを不快に感じ、これを自分で汚物処理場に運んで処理しようと考えた。
そこでAは同日午後6時ころ、ポータブルトイレ排泄物容器を持ち、シルバーカーに掴まりながら廊下を歩き、同じ2階で1室を隔てたところにあるトイレに赴き(距離にして約15ないし20メートル。)トイレに排泄物を捨てた後、その容器を洗おうとして隣の本件処理場に入ろうとしたところ、出入口の仕切りに足を引っかけて、本件処理場内に転倒した。
施設職員は、夕食が終わった他の車椅子の入所者を部屋に誘導して戻ってくる途中で、Aのシルバーカーがトイレの前にあるのを見つけ、トイレの中からうめき声がするので、中をのぞくと原告が倒れているのを発見した。
(3)事故後の経緯
Aは、本件事故により右大腿骨頸部骨折の傷害を負い、骨接合術の手術を受けると共に、68日間の入院加療及び31日間の通院加療を余儀なくされた。
症状固定後、創痕、右下肢筋力低下(軽度)の後遺症が残り、1人で歩くことが不自由になり、これを一番残念に思っている。要介護度は3のままで変更なし。
(4)判決文ハイライト
「A所論のとおり、居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれをトイレまで運んで処理・清掃したいと考えるのは当然であるから、ポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と本件事故との間に相当因果関係が認められる。
この点被告は、「ポータブルトイレの清掃がなされていなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護要員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。」と主張するが、前記認定のようにポータブルトイレの清掃に関する介護マニュアルの定めが遵守されていなかった本件施設の現状においては、Aら入所者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、本件施設職員が、直ちにかつ快く、その求めに応じて処理していたかどうかは、不明であるといわなければならない。
したがって、入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務に違反したことと本件事故との間の相当因果関係を否定することはできない。
したがって、被告は、本件事故に関して、Aに対して本件契約上の債務不履行責任を負う。」
民法717条の責任について
A所論のとおり、本件施設は、身体機能の劣った状態にある要介護老人の入所施設であるから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用等に際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が特に求められているというべきである。
しかるに、現に入所者が出入りすることがある本件処理場の出入口に本件仕切りが存在するところ、その構造は、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒等の危険を生じさせる形状の設備であるといわなければならない。
これは民法717条の「土地の工作物の設置又は保存の瑕疵」に該当するから、被告には、同条による損害賠償責任がある。」
(5)認定損害額の主な内訳
受傷慰謝料100万円 後遺症慰謝料135万円 付き添い費用27万円
将来付き添い費用210万円 弁護士費用40万円
(6)外岡コメント
工作物責任(民法717条)の論理構成でも責任を認めている点で、珍しい裁判例といえます。
介護施設はそもそも介護目的で設計されているので、通常、建物の在り方自体に責任が認められることは今後もまず無いものと考えられますが、本件はそもそも施設職員らのトイレの清掃義務懈怠という明らかな怠慢が原因となっていることに鑑み、例外的に原告の主張を認容したのではないかと思われます。
なおAさんは事故当時95歳という年齢にも拘わらず、自ら裁判を起こし当事者尋問でも陳述しておられます