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Q:37 看取りに関する身元保証人以外の家族の同意について
特養の相談員です。あるご利用者(女性)の看取りの方針決定につき悩んでいます。
この方の身元保証人は実の弟さんになるのですが、実はこの利用者には二人のお子さんがいまして、若い頃子供たちを置いて家を出て、それっきり会わないまま今日まできてしまったとのことでした。
ご本人は認知症で判断能力がなく、後見人もいないため施設では弟さんと話し合いながら看取りに向けた体制を整えていったのですが、担当医の先生が「実の子がいるのだったら、その人から同意書をもらわないと訴えらえたとき負けてしまう」と言い、施設の方でそうするよう求められています。
私個人としては、身元保証人は飽くまで弟さんですので、他の親族がいようといまいと気に掛ける必要は無いのではないかと思うのですが…
弟さんの方からお子さん達と連絡を取ることは可能であり、現に口頭で看取りの承諾を貰えたとのことなのですが、担当医の言う通り書面で同意書を頂かなければならないものなのでしょうか。できればこれで進めてしまいたいのですが…
別途書面で同意を得る必要まではなく、弟さんの「お子さんの承諾を得た」との証言だけで足りるものと考えます。弟さんとの会話内容を、どのような記録でも良いので書き記しておけばそれで準備すべきこととしては十分です。もし念を入れるのであれば、会話内容を録音しておくと良いでしょう。「同意書を貰っておかないと裁判で負ける」ということはありません。
一方で、仰るように「お子さんの意向を全く気に掛けなくてよい」という考え方も極端であり、場合によっては「自分は聞いていなかった」と後から責任を追及されるリスクがあります。この点については担当医の先生の懸念も全くの杞憂ではないと言えるでしょう。
現実に、きょうだい間で看取り方針に争いがあり、親の死亡後に長女がキーパーソンの立場にある長男と、病院を訴えたという事件がありました(平成28年11月17日東京地裁判決)判決では、実は長女も看取りについてのカンファレンスに同席しており、その際何も異議を述べなかったことを理由として長男、病院とも責任を否定しましたが、裁判所はこう判示しました。
「患者の家族のうち医師等からキーパーソンとして対応されている者が、 延命措置に関して患者本人や他の家族が自らと異なる意見を持っていることを知りながら、医師等に対してその内容をあえて告げなかったり、容易に連絡の取れる他の家族がいるにもかかわらず、その者の意見をあえて聞かずに、医師等に対して自らの意見を家族の総意として告げたりした場合には、患者本人や他の家族の人格権を侵害するものとして、これを違法であると認める余地があり得る。」
「キーパーソン以外の家族がキーパーソンと異なる意見を持っており,そのことを医師において認識し得た場合には、その者からも個別に意見を聴くことが望ましいといえる」
この規範に照らせば、本件においても施設側で実の子の存在を知ってしまった以上、その者らの意向を可能な範囲で探ろうとする努力をすることが見られるものといえます。その際、冒頭で述べたように所定の同意書に署名押印を貰う必要までは無いですが、いざという時事実経緯を立証できるよう、なるべく丁寧に記録を取るようにしましょう。