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Q:32 賠償を求めてくる利用者家族を退去させられるか
特養内ショートステイの管理者です。ある認知症のご利用者がリビングで転倒骨折され、ご家族が代理人弁護士を立て賠償を求めてきました。ご利用者はもう退院し、元の居室に復帰されています。
現場では、いつまたこのご利用者を転倒させてしまわないかビクビクしながら接しており、転倒事故がまた起きれば重ねて賠償を求められると思うと気が気ではありません。
ご利用者ご自身は何も悪く無いのですが、この様な状態ではご家族側と信頼関係が築けないものと思います。やむを得ずこちらから契約解除し退去して頂きたいのですが、そのようなことは可能でしょうか。
事情は分かりますが、建前論としては非常に難しいと言わざるを得ません。事業所側からの解除を可能とする要件である「信頼関係破壊」とは、飽くまで事業所と利用者が対等な関係にあることを前提とした上で、利用者(またはその家族)が度を越した要求等の行為をしてくることによりサービス提供が困難となる場合を想定しています。
本件で問題視されている損害賠償の請求自体は、利用契約上も明記されたいわば当然の権利行使であり、この権利を行使したからといって「信頼関係が破壊された」とは言えないものなのです。 ちなみに、同種の事案である市の高齢者事業推進課事業者指導係に本件を報告し見解をお尋ねしたところ、やはり利用者との賠償問題について、提訴や示談交渉をすること自体をもって信頼関係の破壊と見做し施設側から一方的に解除することは認められないとの見解でした。
信頼関係破壊というためには、賠償を求めるにしても家族が職員に対し怒声を浴びせたり、何時間も拘束する等業務に支障を来す明らかな逸脱行為があることを要するものと考えます。
一点、もし反論するとしたら、その代理人の方は利用者の後見人なのでしょうか。弁護士といえど、依頼するご自身に判断力がなければその代理人となることはできず、認知症である以上後見人とならなければ、本来は代わりに請求することはできないはずです。そのような資格要件を問うという反撃方法は、有効であると思います。