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Q:29 グループホームから床材の張り替え費用を請求された
グループホーム入居者(80代男性)の家族の者です。ある日、ホーム側から、父が「廊下で何度も排尿し、床材が腐ってしまったので張り替えで60万円かかる」と突然請求されました。
父が排尿しているという事自体初めて聞いたので驚いたのですが、施設側は「入居契約書に、ご利用者の故意または重過失により損害が生じた場合は弁償して頂くと規定されている」といい強行に支払いを求めてきます。応じなければいけないのでしょうか。
結論としては払う義務はありません。リスクマネジメントのQ13「ご利用者から受けた物損につき家族に請求できるか」をご参照ください。
本件は「認知症の人が生じさせた損失につき誰が賠償義務を負うか」という問題を利用者側から捉えた問題ということになりますが、基本的に認知症のご利用者には責任能力が無いため、ご本人に賠償を求めることはできません。民法714条にはこう書いてあります。
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
従って施設側から見れば、ご家族に賠償を求められるか否かは「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるか否かにかかるのですが、グループホームの場合は24時間365日施設に滞在される形式ですから、その監督義務者は施設の現場職員ということになり、原則として家族に責任を問うことはできないということになります。
契約書に利用者が責任を負うかの様な記載がなされていても、それは無効と解されるでしょう。施設側には気の毒な点も否めませんが、原則として責任無能力者の行為により生じた損害は、監督者がいない以上誰にも請求できないというのが日本の不法行為論のスタンスなのです。本件でも施設側としては、排尿問題があれば1回目ですぐ家族側に報告相談し、正に先手を打って対策を講じるべきだったといえます。