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Q:16 相続放棄後の医療費引き落としについて
都内に住む70歳女性です。私の兄は75で死亡しましたが、生前クリニックで治療を受けており、2か月分の21万円を滞納していました。
兄とはずっと疎遠だったのですが、兄が危篤になったので面倒を見始めたところ、クリニックから電話があり滞納分の支払いの相談を受けました。払わないのも悪いと思い、「高額なので分割してほしい」と希望したところ、5か月後、2か月に分けて私の口座から引き落とすことで合意し、その手続きをとりました。
しかし兄の財産状況を調べるにつれ、方々で他にも借金があることが分かり、私は兄が死んでも、相続したくないと思う様になりました。そうするうちに兄が死亡したので、家庭裁判所に相続放棄の手続きを申し入れました。
ところが、放棄の認定が下りて安心していたところ、その翌月にクリニックから引き落としがかけられてしまったのです。
事前に放棄した旨告げ、預金を引きあげていれば良かったのかもしれませんが、放棄した以上支払う義務も無くなるはずですから、返金してもらいたいと考えています。可能でしょうか。
結論から言うと難しいかと思われます。確かに理屈上、放棄が完成すれば支払い義務も無くなるのですが、その上で引き落としがかかる状況を放置してしまったことから、民法上「第三者弁済」が成立してしまう可能性があるのです。
第三者弁済の条文(民法第474条)には、次の様に定められています。 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
つまり、法律上支払う義務が無くとも、第三者として弁済することはできるということです。勿論ご自身の内心としては「弁済する気など毛頭なかった」というものでしょうけれど、そうであればその意思表示をクリニックに対ししておくべきでした。
もし事前に「放棄をしたので、支払義務は無くなりました。ついては引き落としを中止してください」等と申し入れをしていれば、支払わないという意思を明確に表示したといえ返金を求めることもし易かったといえるでしょう。
このように、「放棄の手続きさえ終えれば、後は一件一件の債務の問題も自動的に解決されるというものではない」ということは、覚えておかれると良いでしょう。