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Q:13 介護職から事務職への異動命令を拒否されたら
訪問介護・看護事業所を運営している者です。2か月前、20代前半の新人を介護現場勤務で雇用しました。現場経験は無く無資格者でしたが、面接ではやる気を見せたため伸びしろを期待して雇用しました。
ところが指示命令をしっかり把握せずうっかりミスが目立ち、注意しても反抗的態度をとるので、これでは危なくてご利用者の命を預かる仕事はさせられないと考え、事務職への異動を命じました。
するとその者は、「自分は介護がしたくて入職したのであって、注意された事項は全て改善している。不当な異動命令である。」と言い張り会社に来なくなってしまいました。その間労基に相談したらしく、労基から電話があり「基本的にこうした問題で関わることはできないが、良く話し合って解決してほしい。労働委員会による調整も依頼を受ければできる。」とのアドバイスがありました。
ですが、今まで何度か面談はしてきましたが、若い人特有なのか分かりませんが彼は全く責任感がなく、これ以上話し合っても無駄であると思っています。無断欠勤2日目ですが、明日は出社する様です。そのとき、解雇を言い渡しても問題ないでしょうか。
今の段階では解雇はまだ踏み切らない方が無難でしょう。恐らく就業規則にはは懲戒解雇(もしくは諭旨解雇)事由として「「正当な理由なく、会社が命じる転勤・配置転換・出向・昇進を拒否したとき」と記載されているでしょうから、文言上は懲戒解雇することもできそうに見えます。ですがそれが最終的に裁判所において(違法か否かの判断を下すのは労基ではありません)認められるためには、次の二つのハードルを乗り越える必要があります。
遠隔地への転勤命令を拒否して懲戒解雇され、その不当性が争われた有名な事件があるのですが、最高裁は結論として解雇は有効と認定しました(東亜ペイント事件 最二小判昭61.7.14)。その判例がガイドラインとなるのですが、
①まず懲戒解雇が有効となる前提として、異動命令が有効である必要があります。
「使用者が配転(異動)を命じるには、労働協約や就業規則によって配転命令権が労働契約上根拠づけられている必要がある。就業規則に配転を命じうる旨の包括的規定が設けられており、これに基づいて実際上も頻繁に配転が行われているという場合には、配転命令権自体は肯定されることになる」とされています。
本件ではここがまず引っかかる可能性がありそうです。「介護」と「事務職」は全く職種が違うところ、採用時に「働きぶりによっては事務職への異動もありうる」と説明し了解を得ていたのであれば別ですが、今回の様に揉めてしまうと雇用主としてはそこを突かれると少し弱いということです。
次のハードルとしては、②「使用者に配転命令権が認められる場合も、a.配転命令に業務上の必要性が存しない場合、b.配転命令が不当な動機・目的に基づく場合、c.労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼす場合には、配転命令は権利濫用(労契法3条5項)として無効になる。」というものがあります。
要するに異動命令の内容が合理的か否かという観点から審査されるのですが、これは仰る通り「指示に従えない様であれば、命を預かる仕事など危なくて任せられない」というもっともな理由がありますから問題ないでしょう。
私の知る限りでは、本件の様に「介護現場勤務から事務職への異動」につき争われた裁判例は存在しない様ですので絶対の確証は持てないのですが、以上分析したところでは、①については「そうはいっても就業規則に書いてある」という理由で押し、②の実質論で説得するしかないものと考えます。
具体的には、まずスタンダードに話し合うのですが、その際「今回異動してもらおうと考えたのは、これこれこういう理由によるものだ」と一から説明します(勿論秘密録音しておきます)。相手が「改善した」というのであれば、改善したとはみていない理由を具体的に説明します。
その段階でもし、もう一度チャンスをあげて今度こそ改善したかをチェックする機会を設けられるようでしたら、そうすると良いでしょう。「ただし、次回も改善が見られない様であればそのときは普通解雇する」と宣言します。
「急がば回れ」の意識で、根気よく具体的なエピソードを証拠として積み重ねていくのです。
まずは直接ご利用者の身体・生命の安全にかかわらない部分的な業務から復帰させてみて、相変わらず改善しない様であれば、そのとき普通解雇に踏み切ります。
このように「異動命令からの拒否、懲戒解雇」というコースは、なまじ就業規則で定められている以上安易に乗ってしまいがちですが、だからこそ慎重な判断が必要といえます。