本サイトのコンテンツは、全て月会費以内で制限無く閲覧頂けます
Q:2 法人がパワハラの主体となることはあり得る?
特養に勤務する者です。私は先月まである部署の事業部長の地位にありましたが、突然別部署への異動を命じられました。
それまで支給されていた役職手当も中止となり、生活が厳しくなるであろうことも心配なのですが、新たな部署での業務内容が一向に告げられず、何をすればいいのか分からないまま初日を迎えようとしています。
私としてはこの様な処遇を受けるだけの不正や問題を起こした覚えはなく、従前の地位でも十分な実績を残してきたと自負しており、法人はおそらく私を追い出したいのだろうと思います。
この様な法人のやり方はいわゆるパワハラに該当しないのでしょうか。
可能性としては有り得ます。
パワハラについては厚生労働省により次のとおり定義されています。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」
(平成24年1月30日 厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」より)
ちなみにパワハラについては、上司から部下に行われる典型的なものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれます。
本件では、自然人(いわゆる「人」)以外の、法人そのものがパワハラの主体となり得るかが問題となりますが、厚労省に確認したところ特に法人を除外する理由も無いので主体たりうるとの回答でした。従って「法人によるパワハラである」との主張は可能ということになります。
ただ、やはり一般に「パワハラ」といえば上司をはじめとする個人(或いは複数人)の言動(「辞めちまえ」「のろま」といった誹謗中傷)が典型的であり、法人の決定した従業員の処遇そのものがパワハラと認定されることは難しいと思われます。
それよりも、その異動処分(配転)や実質降格となる扱いが不当であり、ひいては「無効である」と主張する方が自然といえるでしょう。
その方針で争う場合、一般に「配転」については「業務上の必要性が存在し、かつ、その命令が他の不当な動機、目的をもってなされたとか、または労働者に対して通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせることになるなどの特段の事情がない限り、権利濫用とはならない」とされるところです(東亜ペイント事件・最二小判S61.7.14労判477号6頁、日産自動車村山工場事件・東京高判S62.12.24労判512号66頁)が、
「降格」についても、 「労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである」とされています(前述バンクオブアメリカイリノイ事件、なお、同旨の判決として前述東京都自動車整備振興会事件、大阪府板金工業組合事件・大阪地判H22.5.21労判1015号48頁ほか)。
したがって、人事異動としての降格を実施する場合は、使用者の裁量権が広く認められているとはいえ、降格の理由および目的が適切ないし合理的か否か、降格の理由および目的に応じた職位ないし職務への降格か否か、労働者の受ける不利益が相当か否かについて、総合的に検討する必要があります。
その様な観点から今回の処分に合理的理由があるか否かを運営側に再度問い質してみてはいかがでしょうか。